October 20, 2011

「ピッチャーは信用できん」 と言った落合さんじゃったが、それでは踏み込まなかったか?というとそうじゃないんよ。思いっきり踏み込んだ。落合さんは自分が強打者である事が分かっていた。そしてバッテリーが強打者をどう扱うかも十分理解していたんよ。

一般的に強打者であればあるほど体に近い所、つまりインサイドを突かれる。「いいバッターに内角は怖いでしょう?」という人もいると思うけど、強打者を安全な外角だけで討ち取れたら苦労はないのよ。全ての球種、コースを使って勝負しないと、バース、落合クラスはまず討ち取れない。もちろんインサイドにストライクは絶対ない。インサイドの体ぎりぎりのボール球。胸元で体を起こし、足元に投げて下半身を動かす・・・思いつく限り相手の嫌がる事をやるわけよ。それでようやく討ち取れるかどうか?
 
厳しい攻めをされるのは強打者の宿命・・・。落合さんには分かっていた。そしてそう扱われる事に誇りを持っていたんじゃないかと思われる節すらあった。

厳しく攻められれば当然デッドボールも多くなる。じゃが、落合さんはこのきわどい球を避けるのがまた上手いのよ。体も強かった。いわゆる「アンコ型」だったけど、筋肉が凄かった。練習で鍛え上げられた、いい体じゃったなぁ。努力なしではあんなにならないよ。
 
落合さんの筋肉に感心したワシじゃったが、それ以上に感心したのがその態度じゃった。内側を攻めればやっぱりデッドボールが多くなる。わざとじゃないけど仕方ない。バッターボックスで落合さんによく言われたよ。

「達川。首から下ならどんなに体に近くても、ぶつけても文句は言わん。でもな、首から上は止めてくれ。オレにも生活があるからなぁ」

実際、落合さんはデッドボールを受けても怒った事はなかった。外国人選手が時々やるようなピッチャーを恫喝するような態度も一度も無い。いつもと変わらず、しれーっと1塁に歩いていった。
 
その後姿をいつもワシは鳥肌の立つ思いで見送った。

ワシの鳥肌の理由?硬式のボールに触れた人は分かると思う。あれはまるで石よ。それが140キロを越すスピードで飛んでくる。オーバーかも知れんけど、デッドボールとは常に死と向かい合わせにあるんよね。

凄まじいまでのインサイド攻め。結果、デッドボールを受けた選手が、何事も無かったように静かに1塁に歩いて行く・・・。

「この人は死ぬ覚悟で打席に立っている。それが4番の宿命と腹を括っている」

落合博満の後姿。その背中に当時のワシは4番の責任感とプライドを見ていた。
 
これがワシの鳥肌の理由なんよ。こんな選手が断じて「自分勝手」であるはずが無いじゃろう。